2011年7月16日土曜日

書評 「子どもは遊べなくなったのか」 ・ 神谷 栄司 編著 (三学出版)

タイトルだけ見れば「いまの子供たたちが遊びの方法やルールを忘れてしまっっている」ということがテーマかと思えるが、実はそれだけではない。

著者は現代の子供の遊びにに見られる「負」の部分に光をあて、その状態を説明。その上でそこから脱出することのできる遊び理論として

ピアジェのルール論とヴィゴツキーの遊び論に着目し、子供を救い出す具体的な方途を探ろうとしているのである。

さらに著者はテーマの要旨について、このようにも述べている。

幼児や小学生の世界に異変とでもいういるべき事態が進行している。

『遊びの根幹であるルールをめぐって、異変は起きている。遊びグループの中で比較的に力の強い子供が、自分の負けがはっきりする直前に、負けないようにルールを勝手に変更してしまう。

その結果遊びは崩壊していく。他方、種々の発達障害の疑いのある幼児たちも独特な形で「遊びにくさ」のなかにある』

このように、現代の子供の遊びに見られる「負」の部分に光をあてて、その状態を説明し、そこから脱出することのできる遊び理論とはどのようなものかを明らかにしようとしている。

内容を紹介する目次もなかなかバラエティに富んだユニークなもので、読者の興味を引くこと間違いない。

<内容目次>

第1章 ・勝ち負けを遊べない子ども ・オニごっこが続かない ・負けるのが怖い ・「勝ち負け」を遊べない ・勝つことにこだわる ・大人の介入
・消える「ごっこ遊び」 ・社会性と集団遊び ・早期教育 ・子どものストレス ・受験戦争 ・子どもの心、・親知らず ・心の中の原風景

第2章 ・幼児のトラブルと人間関係─「荒れ」からの恢復と《イメージの遊び》の可能性 ・子どもの遊びをめぐる二つのモメント
・子どもの遊びと「荒れ」 イメージの遊びによる「荒れ」からの恢復の姿

第3章 ・「発達障害」のある幼児と《イメージの遊び》─一年間の保育の流れのなかで 1 戸惑いの四月 2 模索の保育 3 晩秋の保育 4 劇遊び(三学期)

第4章 ・遊びにおけるイメージとルールのパラドックス ・本質への手がかりとしてのパラドックス  1 遊びのパラドックス
・表裏をなすイメージとルール ・遊びのルールに関するピアジェとヴィゴツキー 遊びのルールの獲得 ・実行とルール意識の四段階(ピアジェ)道徳実在論 ・ピアジェとデュルケーム ルールの変更を受け入れる幼児の論理 ・ヴィゴツキーにおける遊びのルールと生活のルール ・二羽のカナリアの唄

第5章 ・ヴィゴツキー=スピノザ遊び理論の原理的考察 ・イメージの遊び ・成熟しつつある過程 ・ルール ・欲求、情動と〈内的ルール〉・最大の抵抗路線 ・最近接発達領域

(著者紹介)

神谷栄司 (京都橘大学人間発達学部教授、博士(人間文化学)(著書) 『未完のヴィゴツキー理論』(三学出版))

麻生奈央子 (お茶の水女子大学大学院博士後期課程、ライター)

代田盛一郎 (大阪健康福祉短期大学専任講師)、

路端さゆり (幼稚園教諭)、堀村志をり(東京大学大学院博士後期課程)

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