2012年4月17日火曜日

久々に出会った”香り高い”文学作品 ・書評 「逡 巡」 せきしろ著  新潮社


四十一編の掌編小説と短編小説からなる作品集である。


その大多数はショートショートとも呼ばれる掌(てのひら)小説である。


しかしこれらの掌編、いづれをとっても出来はすばらしく、その「オチ」も抜群に優れており、読む者にしばしばハッとする感動を与える。


数少ない短編の方も文章、構成力とも優れており、文学で大切な人の心の動きをその襞(ひだ)にまで迫り鋭くとらえているのには心打たれる。


この作者、名前も変わっていて、まだそれほど売れてはおらず、作家としては有名でないようだが、文学者としてのこの人の力量は並々ならぬものがあるのではなかろうか。


収録されているすべての作品に心打たれた。他の作品もぜひとも読みたいものだ。

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作者の紹介

せきしろ、男性、(1970年11月3日)は北海道出身の作家、コラムニスト。本名は非公表だが、「せきしろ」は苗字である。星座は蠍座、血液型はA型。北海道北見北斗高等学校卒業。福島大学中退。

福島大学在学中に伊集院光のラジオ番組で作家見習い。その後雑誌にてデビュー。週刊SPA!の投稿ページ『バカはサイレンで泣く』に参加。以降、文筆家に。

バッファロー吾郎の木村明浩やピースの又吉直樹、THE GEESEの尾関高文、鬼ヶ島の野田祐介、R藤本と親交が深い。

THEE MICHELLE GUN ELEPHANTのクハラカズユキは同じ高校の1年先輩[3]。文化祭でそれぞれバンドをやった。

パンク・ロックとギャルゲー、 アイドルに造詣が深い。

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他の書評から

情感が蒸発する掌編 

「知らない著者だけど、何だか面白い」。読書委員の一言が気になり、翌日、手に取った。
 確かに奇妙な掌編小説40編が並ぶ。例えば「涙」という一編——。
 <襖(ふすま)をそっと開けて中を窺(うかが)うと祖母が寝ていた>
 
抑えた書き出しから始まる作品は、肉親との別れを静かにつづる。……かと思いきや、情感は理不尽にも一瞬で蒸発してしまう。
 
「そうすね。書いてると飽きてきて壊したくなって」。著者は、むやみにゆっくり話す人だった。「ほとんど毎日、ベッドで寝てます。ずっと天井を見たり、外をほっつき歩いて『ここに整骨院ができたか』と確かめたり」
 
1970年、北海道生まれ。中学では「けんかの強い人が一番の時代。格好をつけていた」。高校では「少女漫画にあこがれ、ぶっきらぼうにしたけど全然だめだった」。受験で上京し、「レコードとか死ぬほど売ってた。楽しくて」。そのまま居着いたという。
 
一時、福島大に入って除籍になり、ラジオパーソナリティーの伊集院光さんの下で放送作家の修業をしたが、長くは続かない。雑誌ライター、ラジオ構成などの仕事を経て、今に至る。一方、読書好きのタレントで知られる又吉直樹さんとの共著の自由律俳句集『まさかジープで来るとは』を出すなど気になる存在だ。<荷物を股に挟んで拝む>
 
自由律の存在は、高校時代の国語便覧で知った。好きな俳人は、<咳をしても一人>の句で知られる尾崎放哉。作家は、新感覚派と呼ばれる横光利一に、小説の神様、志賀直哉と話す。
 
ならば今後も、歯ごたえのない時代に漂う人間の寄る辺ない感覚を書き続けてほしい。期待は高まるが、「目標はありません。こんな感じでも生きてゆけることが伝われば」。
(新潮社、1500円・待田晋哉)

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