2014年4月19日土曜日

このTALL TALE (ほら話) がおもしろい! 




TALL TALES  ・ ほら話  
   
 From A Treasury of American Folklore (訳)大平庸夫


 夕刻であったが薄茶色の太陽はまだ油送管敷設作業員のキャンプに影を落としていた。 パイプラインはもう3週間もの間、この死んだような埃っぽいだけの荒野に延々と距離を延ばしていた。

 作業員たちはもう20日以上も暑い8月の太陽の下で働き続けていた。 夕食後、彼らはいつものように草の上に寝転がって食後の休憩を楽しんでいた。でも1人の太った男だけは例外で、まだ懸命に食べ続けていた。

仲間から”デブ”と呼ばれていたその男は、なににつけても一番後だった。仕事につくのも最後、食事が終わるのも最後、そしてもう一つ確実に最後まで続けるのが彼の得意とする”おしゃべり”なのである。 男たちはその日も夕食後の雑談を楽しんでいた。

 「俺がずっと前に一度だけ見たことを話してやろうか」 誰かがそういった。

 「俺はなあ、太くて大きなハムを丸ごと平らげる男を見たことがあるんだ」。

 「そいつが俺の家にやってきて、何か食べたいていと言うんで、俺の妹はテーブルをかたずけてそ
 の上に太くて大きなハムを丸ごと置いたんだ。妹は自分の仕事をかたずける為にしばらく席を外し
 たんだけど、少しして戻って見ると、男の姿もハムも無く、残っていたのは骨だけだった」。

男たちは笑い声をあげた。少し離れたところに座って、半信半疑な様子でこれを聴いていた”デ
ブ”が立ち上がって仲間に加わってきた。

 「食うことの話と言えばなあ」。デブが言った。

 「このまえ、街の線路の近くの店へ食いにいったんだけど、俺の席の近くに2人のでかくて頑丈そうな奴らが座っていたんだ。そのうちの一人の方がウェイターにこう言うんだよ」。

 「1インチ半に切ったTボーンステーキ(T字型の骨つき上肉ステーキ)を持ってきてくれ、焼くのは1分でいいからなとな。すると今度は隣に座っていたもう一人の奴が『牛1頭のうしろ4分の1の肉を全部持ってきてくれ、生でいいから』と、こうだ」。

 「それからウェイターがやっと俺のところへ注文を取りに着たので、俺はでかい声を出して言ってやったよ。『切れ味の良い肉切り包丁と生きた牛を1頭持ってきてくれ、俺の好きなように切って食うから』とな」。

 「牛の話と言えばなあ」。最初に話した男が口を挟んだ。

 「ポール バンヤン(伝記上に人物で雲をつかむような大男)がなあ、奴の放牧場からシカゴまで敷いた家畜輸送管のことを聞いたことがあるかい? ポールの奴は牛を市場に運ぶのにかかる高い貨物代を払うのがいやになって、自分でシカゴまで通じる太くて長いパイプラインを敷いたんだ。

それから奴は牛をどんどんその中へ押し込んでいってな、すべてが順調にいったんだけど、一つだけ問題があった。それはな、パイプがやけにでかかったんで、途中で迷子になる牛がいてな、そいつは出口まで行く前に飢え死にしてしまう訳よ」。

この話を聴いていたデブは、何とかこの男を負かす方法はないかと考えていた。

 「一度だけポールのところで働いたことがあってな」 先ほどの男がまた口を開いた。

 「そこは俺が働いた油井の中で一番デカイ奴で、油井やぐらもでかくて長いのを作ったって訳さ。あまりにも高いので、やぐらに太陽や星がぶつかるとやばいから、そいつらが通過するときには下の方を折りたたむ始末ででな、それにてっぺんまで上るのに男の足で14日もかかってしまうんだぜ

それでポールはその仕事に30人の男たちを用意して、いつも14人を上りにあて、14人を下りに充てたので、いつも誰かがてっぺんにいたんだ。つまり一人がいつもてっぺんにいて、もう一人はいつもやぐらから下りているってわけさ」。

 「ところでなデブ、ポールのところへいた雄牛を見たことがあるか?」 このキャンプで働き始めてまだ数日しかたっていない若い男が口を開いた。

 「馬力のある奴で、いっぺんに100本もの材木引っぱることができるんだぜ」。

 「1回の餌に100表の干草を平らげるそうじゃねいか」 別の男が付け加えた。

 「もちろんだとも」 デブがようやく口を開いた。

 「俺は奴が湖の水を全部飲み干してしまうのを見たことがあるぜ、ところで俺がインドでポールの穴掘りの手伝いをしたときの話を聴いたことがあるかい?。幅90インチの穴だってけど、2万7千フィートまで掘り進んだとき

ゴムの木の根っ子にぶち当たってしまってドリルの刃の弾みが止まらなくなってな、仕方なく穴掘りを諦めたってわけさ」。

 「俺もそこで・・・」と、最初の男がまたしゃべり始めようとしたので、デブがすばやく割って入った。

 「おい、お前たちのうちで誰かポールがトランプをするのを見た奴はいるか? 奴の使ってたトランプはすごくでかくて、その回りを1周するのに5時間もかかったんだぜ。

ポールはミシガン湖を掘っていたときとか、ロッキー山脈を造っていたときにはよくロランプ遊びをやっていたよ。おい、誰か俺とトランプ遊びをやらないか?」 

 彼のこのセリフが男たちが寝床へ行くサインだった。

 太陽はもうとっくに沈んでしまっていた。男たちは静かにテントに向かって去っていった。デブのテントにトランプをやりにいく3~4人の男たちを残して。

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