2018年4月6日金曜日

40年前、NYから日本の職場へあてた手紙 ・ 懐かしのニューヨーク職場日誌(6)

机の中から出てきた40年前の手紙


机の中を整理していると、むかし勤務していた職場の社内報が出てきました。

今から40年以上前のもので、ちょうどニューヨークに職場留学していた頃のもので、中身を読んでみると、現地から日本へ送った懐かしい手紙が「ニューヨーク便り」という形で載っていました。

本日のブログではこの手紙をご紹介することにします。


Dear Friends                              

五月に入ったニューヨークは、朝晩まだ多少の寒さは残っていますが、街を行く人々もようやく分厚い冬のコートを脱いで、華やかな春の装いに着かえたようです。

日本の五月と言えば、目に映る青葉が鮮やかで、風薫る一年中でいちばん快適な季節のようですが、ここニューヨークでは一ヶ月ぐらい遅れた六月ぐらいがそれにあたるようです。

さて私が大阪を発ったのは、今は懐かしい、あの万博が終わった昨年の十月末でした。

あれからすでに六か月、環境、風土、あらゆるものが違うニューヨークでの生活がようやくしっくりと身についてきた感じです。

こちらに着いて二~三か月目に感じた、あのどうしようもないほど強烈なホームシックも今は消え、とにかく一人でのんきな生活を送っております。


客室2000の超マンモスホテルはざら


私が現在働いているスタットラーヒルトンホテルは、言うまでもなくヒルトン系のホテルの一つで、かの有名なエンパイヤ―ステートビルからあまり遠くない、七番街三十三丁目にあります。

客室数2100という超マンモスホテルで。規模の上ではニューヨークヒルトンに次ぐ二番目のホテルですが、ニューヨーク客室が2000室前後のホテルは、このほかにも、ニューヨーカー、アメリカーナ、ウォルド―フ・アストリア、コマドールと、並べべているときりがないぐらい沢山ありますから私のいるスタットら―ヒルトンが図抜けて大きいというわけではありません。

こちらの有名ホテルがほとんどそうであるように、このスタットら―ヒルトンもまた、大変古いホテルです。聞くところによると五十年前に建ったそうですから、その建物の様子は想像していただけると思います。

高さは21階で、ホテルプラザ(大阪の勤務先)よりやや低いだけですが、長年、風雨とスモッグに晒されてきた外観は見るからに煤けていて、日本のホテルのような華やかさはありません。

数多くあるニューヨークのホテルの中で、近代的なスマートさを誇っているのは、比較的最近建ったニューヨークヒルトンとアメリカ―ナぐらいです。

しかし建物が古くても内部は改装に改装を重ねていますから、それほど古さは感じませんし、設備についても一部の点を除いては、それほど近代的ホテルにひけをとってはいないようです。

この点は昨年欧米視察旅行を終えられた鈴木社長がプラザメイト(社内報)誌上でおっしゃられていた通りだと思います。

サービスの悪いニューヨークのホテル


ニューヨークのホテルについては、すでに皆さまお聞き及びでご存じだとは思いますが、一般的にサービスは極めて悪いようです。

常にフロントの前にはチェックイン客の長い列、フロントクラークのつっけんどんな態度、レストランのサービスの悪さ、etc, プラザの皆様には全く考えられないようなひどいサービスがごく平然となされています。

サービスをする方がする方なら、お客様の方も、まったくそうしたものに甘んじているようで、こうした状況の中でもお客様からのコンプレイン(苦情)は意外と少ないようです。

今のアメリカ人は、はっきり言ってサービスの味を忘れてしまっているようであり、またそのようなものは期待しても無駄だと、最初からあきらめきってしまっているようにもみえます。

そんな人たちが日本に行ってプラザのようなホテルに泊まると、そのサービスの良さを感嘆しないはずがないと思います。

そちらにいる時、外国人客がアンケートに、「すばらしいホテルだ。設備、サービスもさることながら、スタッフが特に素晴らしい」と書いているのをよく読みましたが、こちらへ来て、その外国人客の気持ちがよくわかるような気がします。

特にスタッフが良いというのは、アンケートの言葉を借りないまでも、事実だと思います。


こちらのホテルで働いている人たち(マネージメント部門は除く)は、はっきり言ってあまりレベルの高い人はいないようで、ウェイター、メイド、キャッシャー、ベルボーイなどのほとんどは学歴のない南米、プエルトリコなどから来た人で占められているようです。

私のいるフロントオフィスにしても、二十名ぐらいいるクラークの大半は、他に別の仕事を持っていたり、学校に通っていたりする人で、日本のように本当にホテルが好きで、将来を目指してその仕事を学ぶ、という姿勢は、こちらの人には見当たりません。

「パンのために働く」やや使い古された言葉ですが、そういう人があまりにも多いようです。

大学卒の人もそれほど珍しくなく、ほとんどの人が高校は出ているという日本のホテル従業員と比べて、スタッフの質という点で、アメリカのホテルは大きく差をつけられているようです。


キャリア30年のベルキャプテン


日本のホテルと比べて、こちらのホテルにはいろいろと変わった点がありますが、中でも面白いことは、お客様の荷物を運んだりするベルボーイのほとんどが、年配の人で占められており、日本のホテルのような二十歳前後の人がほとんどなのとはまるで対照的なことです。

そのベルボーイにも階級があり、それはユニフォームの袖についている星の数であらわされます。一つの星が5年を意味し、二つあれば10年、三つなら15年となり、あるベルキャプテンなど星が6つもついており、30年もこの仕事を続けているのです。

さすがにその人あたりになると、ベルキャプテンといえ大変貫禄があり、周りの人たちからも尊敬されています。

時にはステータスの高いアシスタントマネージャーとあまり変わらないぐらいの扱いを受けることもあるようです。

普通のベルボーイにしても、星が二つや三つ付いている人はざらにいて、星のついていない若い人を見つけるのは稀です。

年配のベルボーイというのは、ある意味では物知りで、落ち着きがあって大変良いのですが、フロントクラークにとってはなかなか扱いにくいものです。

特にチェックイン以外のことではあまり動いてくれないのには閉口します。

チェックインの時は、ほとんど固定給がない彼らにとって、それは必ず収入につながる、いわば飯の種なので、こちらが呼ばないまでもやってきますが、その他のこととなると、まるで動こうとはしません。

こういうのは外国人ルームクラークとしての私にとってはまことになりにくいことです。

それでもチーフクラークぐらいに言ってもらうと、ようやく動いてくれますが、その時間のかかることと能率の悪さはこの上ありません。



まだまだスマートさの足らない海外日本人旅行者


話は少し変わりますが、今や世界のどの主要都市に行ってもそうだと思いますが、ニューヨークもまたすごい日本人ラッシュです。

日本にいるとき海外旅行者が大変多いとは聞いていましたが、まさかこれほどとは思いませんでした。

ビジネスに、観光にと、私のいるスタットら―ヒルトンに来る人達だけでも、5月に入って連日200人は下りません。

距離的には日本に比べてずっと近いはずのヨーロッパのどの国をもはるかに抜いて、現地人(アメリカ人)に次いで2番目の多いのが日本人なのです。

その点、こちらのホテルで働いて給料をもらっていても、何か胸を張りたくなることがあります。どうだ、この日本の勢いは!と。 

でもこうして大量に日本からやって来る人を目のまえにしても、時には悲しくなることもあります。

というのは、最近はずいぶんスマートになってきたと言われる日本人旅行者も、私がこちらのホテルへ入ってから6か月間接してきた感じでは、まだまだ貧弱でやぼったい印象が強いからです。

これは何も体格や服装からばかり言うのではありません。例えば海外旅行は初めてという団体の人はともかく、ビジネスでこちらへきて、しかも一流会社の重要ポストにいるような人でも、ホテルについてチェックインをスマートに行える人は稀にしかいないようです。

たいていは、日本のものとさして変わらないレジストレーションカードをどう書くかわからなかったり、クラークから滞在期間やその他の質問を受けても、2~3度繰り返してもらわないと分からないようです。

もっともそうした人たちのために私のような日本人が雇われているのかもしれませんが、観光客ならいざ知らず、少なくともアメリカで何らかのビジネスをやるために来た人なら、やはりもっと堂々とした態度と、チェックインぐらいは簡単にこなせるスマートさがほしいと、私は常々思っています。

今やニューヨークの街のどの電気店の前を通っても、ソニー、パナソニックなどのスマートな電化製品が、こちらの製品を圧倒して陳列されている時代です。

今はこうした電気製品に反比例しているように見える日本人の海外での姿も、あと数年もすれば本当に洗練されたスマートな姿になることと、わたしは確信しています。

まだまだ書きたいことは山ほどありますが、それは次の機械に譲るとして、では皆様サヨウナラ。







0 件のコメント: